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最高裁判所第三小法廷 昭和56年(行ツ)146号 判決 1984年11月06日

上告人 三上富三郎

右訴訟代理人 鶴見祐策 千葉憲雄

被上告人 佐野保房

被上告人 高橋進

被上告人 世田谷区長 大場啓二

右両名訴訟代理人 山本政敏

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鶴見祐策、同千葉憲雄の上告理由について

上告人の本訴請求は、被上告人佐野が、世田谷区長として、本件計画道路(特別区道)の開設を計画し、その用地に充てる目的で、昭和四一年から同四六年までの間に、土地の買収を行い、その代金を世田谷区の公金から支出し、また、被上告人世田谷区長も、同じ目的で、土地の買収を継続することが予想されるところ、本件計画道路の開設は違法であるから右土地買収も違法であり、また、被上告人佐野の右土地買収は本件計画道路に係る路線の認定に関する世田谷区議会の議決、路線の認定及び道路の区域の決定を経ずに行われたものであるから違法であるとして、地方自治法二四二条の二第一項一号及び四号の規定に基づき、被上告人世田谷区長に対し右土地買収の差止めを求め、被上告人佐野及びこれを補助した被上告人高橋に対し右代金相当額の損害の賠償を求める、というものである。

特別区道の開設については、道路法により、路線の認定に関する区議会の議決、路線の設定、道路の区域の決定、道路の供用の開始という手続を経由すべきことが規定されているが、右手続は、道路法上の道路を成立させるための要件であるにとどまり、当該道路開設のためにその用地に対する権原を任意に取得するについての要件をなすものではないから、被上告人佐野の前記土地買収が、本件計画道路に係る路線の認定に関する世田谷区議会の議決、路線の認定及び道路の区域の決定を経ずに行われたことをもつて、これを違法ということはできない。また、本件計画道路の開設が前記土地買収の動機目的をなすものではあつても、前記土地買収は、本件計画道路を開設する行為そのものとは区別され、それとは独立して、世田谷区に対し当該土地に係る権原を取得させ、その代金の支払債務を負担させるという効果を発生させるにとどまるものであるから、仮に本件計画道路を開設することに所論のような違法事由が存するとしても、そのことにより前記土地買収が違法となるものではない。したがつて、前記の土地買収及び公金支出をもつて違法な行為ということはできない。原判決が、本件計画道路に関し前記の土地買収が行われた後である昭和五〇年四月二六日に路線の認定及び道路の区域の決定がなされている点をとらえ、右の認定及び決定はいわゆる公定力を有する行政処分であるから、それに重大かつ明白な瑕疵が存しない限り、前記の土地買収及び公金支出が違法となるものではないとした点は、法令の解釈、適用を誤つたものといわざるを得ないが、前記の土地買収及び公金支出に違法がないとした結論は正当である。論旨は、判決の結論に影響を及ぼさない点をとらえて原判決を論難するか、又は上記説示と異なる見解に立つて原判決を非難するものにすぎず、いずれも採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤正己 裁判官 木戸口久治 裁判官 安岡満彦 裁判官 長島敦)

上告代理人鶴見祐策、同千葉憲雄の上告理由

<前略>

第二点 道路法第八条、同第九条、同第一八条の解釈の誤り

一、本件の特別区道を開設するには、区長が「あらかじめ当該市町村の議会(特別区議会)の議決を経なければならない。」(道路法第八条第二項)と定められ、この議会の議決を経て路線の認定を行つた上で、これを公示し、路線の認定によつて道路を管理すべき区長が、道路の区域を決定して公示し、その敷地上に所有権その他の権原を取得して必要な工事を施し、道路の形状をととのえて供用を開始するものとされている(道路法第九条、同第一八条)。

しかるに、本件の場合は、この法に定められた手続をことごとく無視し、議会の議決も経ず、従つてまた路線の認定、区域の決定等もないのに、被上告人佐野、同高橋両名の専断で、道路開設を計画し、「道路予定地」なるものを勝手に線引きして作り上げ、右「道路予定地」部分を世回谷区の財政を支出して買収したのであつた。

本件の如く、必要な手続きを全て無視し、いわゆる「先行買収」を行うことは、明らかに道路法に違反する。ことに議会の議決を欠如したまま道路を開設することは、重要な手続違反として当然に違法でありかつ無効である(建設関係法-株式会社日本評論社四四頁、逐条道路関係法規-その解釈と運用-全国加除法令出版株式会社発行九四頁以下)。

二、原判決は「別紙目録記載の特別区道について、世田谷区議会が昭和四八年一一月一三日に路線の認定につき議決し、被控訴人世田谷区長が昭和五〇年四月二六日に路線の認定をして、同区告示四五号をもつて公示し」云々と判示して結局本件財政支出が適正であるとする。

しかし、右は重大な誤りである。つまり、本件の財政支出は、いずれも昭和四一年から同四六年にわたつてなされたものであることは争いがなく、従つて、原判決のいう昭和四八年一一月一三日の区議会の議決、これに続く路線の認定以前の財政支出になるからである。この財政支出が、本件で争われているものにほかならず、議会の議決欠如、手続欠如の本件財政支出が、違法な支出であることは明白だからである。

本件においては、道路法第八条、同第九条、同第一八条を正しく解釈、適用し、本件財政支出は違法であるとの判断をなすべきであつた。しかるに、原判決は右法令を正しく解釈適用せず、重大な具体的事実が右法令の要件に該当する評価を誤つたのであつて、結局、右各法令の解釈、適用を誤つた違法があり、その誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかであるから原判決は破棄されなければならない。<以下、省略>

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